太田出版
単行本でARを活用
光和コンピューター「ミライルーペ」
出版ERPシステム
(ミライルーペAR)
株式会社 太田出版 様(文化通信bBB 2012/9/3 掲載)
太田出版は8月9日に発売したコミックス『待て!モリタ』で、AR(Augmented Reality=拡張現実)技術を利用したプロモーションを行っている。新しい広告手法として注目されるARだが、単行本での活用事例は珍しい。
表紙にスマホかざし動画再生
同社が採用したのは光和コンピューターが提供するスマートフォン、タブレット向けARソリューション「ミライルーペAR」。iOSとアンドロイド向けの無料アプリをダウンロードしたスマートフォンやタブレットを、同書の表紙にかざすと30秒ほどの動画が再生される。
太田出版は、ARを実施するにあたり、同書の帯と、書店に提供したPOPに動画の再生方法を表示するなどしてアピールしている。
単行本1冊でも可能な低料金
「AR技術は大手企業などが広告表現に利用し始めていますが、おそらく1冊の単行本で利用した例はないのではないでしょうか。だから最初にやろうという気持ちで取り組みました」と、同社で広告・宣伝・プロモーション統括とデジタル開発委員会議長を務める北尾修一プロデューサーはARに取り組んだ理由を話す。
北尾プロデューサーは、かねてから出版物でのARの活用を考えていたが、1冊の単行本で試みるには費用がかかりすぎるために見送ってきた。一度はタレント本での実施を検討したこともあったというが、「そのとき提案されたシステムは動作が不安定で、ストアの審査がおりないなど問題がありました」ということで断念した。
「ミライルーペAR」は、たまたま知り合った光和コンピューターの担当者から紹介されたというが、「それまでみてきた他のシステムに比べると、利用料がとても安かったのと、動作が安定していた点に注目しました」という。
「ミライルーペ」は1点当たりの利用料金が安価なため、単行本1点での利用が可能になった。
コミック新刊は以前から動画を製作
対象にする出版物は、近刊の中から『待て!モリタ』を選んだ。理由はその時点でARに必要な表紙絵が上がっていたことと、「表紙の2人がしゃべったら面白いと思ったから」(北尾プロデューサー)だった。
編集担当者を通して著者の松本藍氏から了解を取り、外注で製作した動画と表紙絵を光和コンピューターに納品、そこから10日ほどで環境が整った。「このスピードなら本が責了してからでも間に合います」(同)という早さだった。
同社はそれ以前からコミックの新刊を出すときに告知用の動画CFを製作していたため、スムーズに取り組むことができたという。
その背景には、週刊マンガ雑誌などを持つ大手出版社でなければ、コミックを告知・宣伝する場が少ないためだという。そのため、自社でネットの動画サイトで配信する動画を作っていたのだ。製作を外注しているのはこうした作業が得意なコミック好きな若い学生たち。コストは可能な限り抑えている。
口コミの効果を発揮
北尾プロデューサーは今回のARに求めた効果について、「口コミでの広がり」と述べる。
表紙の絵で動画を再生するという仕組み自体は、直接本の売れ行きを拡大するわけではない。むしろ、“単行本初”といった点が、話題作りにつながることを期待した。
「これで売上がいくらアップするとか考えていたら、結局いつまでたっても試す機会は来ない。実際、ニュースサイトなどでも紹介され、ネットでは話題になりました」という。
ARの活用はアイデア次第
北尾プロデューサーは今後も「タレント本とは親和性が高いと思うので、向いていそうな単行本では積極的に使っていきたいですね。ある程度の量で試してみないと効果も分からないので」と考えている。
また、AR技術には、バーコードなどを認識させる「マーカー式」とあらかじめ任意の登録画像を認識させ、その画像によってコンテンツを表示する「マーカーレス式」があり、「ミライルーペAR」は「マーカーレス式」を採用しているため、表紙ではなくても、POPや広告に掲載された画像でも動画は再生できる。
その技術を活用することで、「単行本に限らず、Webやフィギュアと動画をひもづけるなど、いろいろな使い方があると思います。そういう意味で、アイデア次第なので我々の企画力が問われます」と北尾プロデューサー。
「ミライルーペAR」には、その低料金によって「気軽に取り組める」ことから、多くのトライ&エラーを可能にしてくれることを期待している。