文化通信
書店業界におけるコロナ禍影響度合
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(コロナ下の出版市場を見る)
(文化通信 2020/7/27 掲載)
ネット書店・電子図書館利用は大幅伸長、リアルは大型店ほど厳しく
新型コロナウィルス感染拡大によって、外出自粛などの影響が出た今春の出版市場は、営業を続けた店舗には多くの来店者客があり、売り上げも大きく前年を超える店が多かったが、商業施設の休館にともなう休業も発生した。一方、ネット書店での販売や電子書籍の販売・貸出は急増するといった傾向が見られた。いくつかの調査データからこの間の販売傾向を分析した。
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出版科学研究所の調査によると、書籍・雑誌市場全体は、やはりこの期間は全体としてマイナスで推移している(表1)。
感染拡大が明らかになった3月は、2月に比べてマイナス幅が大きくなったが、書籍は学習参考書が30%増、児童書が12%増などと好調に推移したことで4.1%減にとどまった。一方で雑誌は、中国生産の付録が遅れて発売延期が多く発生するなどしたことで大幅なマイナスになった。
4月は緊急事態宣言に伴う大型書店の休業が増加したことで、書籍が21.0%と大きく減少。コミックスの好調や返品の滞留で月刊誌はプラスになったものの、週刊誌は11.6%減となり、全体でも2桁の落込みとなった。
5月は書籍が9.1%増と大きく伸びているが、出版科学研究所では「休業店が多かったことや学校採用品の返品が行わわれていないことで、返品が大きく減っていることが要因だ」と分析している。
今後、返品が増加することで、6月以降に悪影響が予想される。月刊誌は『鬼滅の刃』をはじめとしたコミックスが好調だったことからマイナス幅が小さかった。
書店店頭の販売状況は、日本出版販売(日販)のジャンル別調査によると、学参、児童書、コミックが前年同月超えを続けた以外は、やはり落込みが大きい分野が目立つ(表2)。
ただ、コミックは2桁増が続き、特に5月は『鬼滅の刃』20巻が発売(5月13日)されたこともあって57.6%増という高い伸長率になった。
また、同社支社別にみると、各地域ともプラスで推移している中で、ナショナルチェーンなど大型書店を担当する「特販」は4月の40.8%減をはじめとして大きく落ち込んでいる。
ネット書店は2桁増続く 特定地域のみ落ち込み大きく
一方、出版社の基幹システムや書店のPOSシステムなどを提供している光和コンピューターの調査では、地域や緊急事態宣言下と解除などによって書店の販売状況に大きな差が出ていることがわかる。
この調査は、全国5250店のリアル書店と主要4社のネット書店4社を対象に、一般書、実用書、学参などを刊行する中堅出版社4社の販売データを集計。限られた出版社の商品を対象にしているため、ジャンルの偏りなどはあるが、広範な市場についての傾向を見ることができる(表3)。
表3はこのうちリアル書店の販売前年同月比を掲載している。都道府県別の1~6月半年間で前年比を上回ったのは高知県、滋賀県、愛媛県のみで、全体では10.1%減となった。
特に特定警戒地域に指定された自治体は、それ以外に比べてマイナス幅が大きい傾向が出ている。とりわけ5月半ばで指定が解除されなかった北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県での落ち込みは大きかった。
一方、ネット書店は5月が41.1%増、6月が39.8%増など各月とも大きく前年を上回っている。
感染拡大の中で大手ネット書店が生活必需品を優先するため出版別の優先順位を下げたとはいえ、やはり外出ができなかったことは間違いない。
電子書籍の利用も増加
電子書籍の利用も増加しており、電子書籍流通大手のメディアドゥは、売り上げ前年比が3月24%増、6月22%増と大幅増で推移した。
また、図書館流通センター(TRC)によると同社のシステムを導入する285館(78自治体、6月現在)の公共図書館の貸出実績が3月は155%増、4月は323%増、5月は426%増と3カ月連続で大幅に増えた。
新型コロナウィルス感染拡大による出版市場への影響は、リアル書店には緊急事態宣言に伴う休業という形で現れ、特に大型書店へのインパクトが大きかった。一方、ネット書店は大きく売り上げを伸ばし、電子書籍の利用も進んだといえる。
今後、感染拡大が続き、外出自粛や小売店舗への休業要請などが行われれば、再び今春と同様の影響を被る可能性もある。市場の動きを見極めながら、対応を考えておく必要があるだろう。
【星野渉】